MELTINと共同で、「手指用ロボットニューロリハビリテーション装置」の特定臨床研究に取り組む順天堂大学。順天堂大学大学院、医学研究科リハビリテーション医学の藤原俊之教授に、日頃の研究や装置について聞きました。
ふじわらとしゆき/順天堂大学大学院リハビリテーション医学教授。すべての障害に対応できる「Physiatrists(リハビリテーション科専門医)」として活動を続ける。
リハビリテーションと聞くと、多くの人は歩くトレーニングをすることなどを想像すると思いますが、私達は「ディスモビリティ(動きの障害)」治療の専門家。つまり、動くことに困っている人たちを対象とする医学であって、動くことの障害を持つ人すべての人が対象で、「動きの障害」を良くすることを目的としています。
一口に「動き」と言っても、手足や身体の動きだけでなく、人が社会生活を営む上で必要な「動き(モビリティ)」ということで、高次脳機能、嚥下障害、言語障害や排尿排便機能障害、心肺機能障害も対象です。どんな疾患を抱える人であっても、動きの障害の回復を目指す、機能の回復が難しい場合でも代償手段を使ってでも動けるようにしようというのが、リハビリテーション医学の基本方針です。
なので、脳卒中でも神経疾患でも、癌の患者さんでも、入院患者さんのほとんどを診ています。年齢層も多様で、先天性の脳の麻痺や低出生体重児などの生まれたばかりの赤ちゃんも対象としています。
医学は診断に基づいてやるもの。「よく分からないけど、歩かせてみよう」というのは医学ではありません。そのためにはまず、麻痺になった手足が動くかどうか、手であれば生活で使えるようになるか、足であれば歩くのに杖や装具が必要かどうか、屋外をどれくらい歩けるかを正確に診断(機能診断)したり、手足の動きだけでなく、運動学習能力を含めて高次脳機能を診断して、言葉をどれくらい理解できるかを含めて診たりする必要があります。
どんな患者さんでも、廃用症候群のリスクを避けるために体を動かしたほうがいいのは当然なのですが、体を動かすことで心肺機能に負荷がかかり、循環動態が不安定になったりする可能性があります。つまり、患者さんをどれくらい「動かす」べきか。麻痺の状態や筋力、心肺機能を踏まえて、最適な運動を決める必要があります。
これまでのリハビリテーションは、外側から体を動かすことで体の内側の神経活動に影響を与えて改善するという方法が主流でしたが、最近は外側から体を動かすと同時に患者さんの意図に応じて体を動かすことで神経機能を取り戻す、脳の可塑性を活用したリハビリテーション手法が注目されています。MELTINの装置もこれに当たると思います。
こうしたアプローチは、大昔から考えられていたものの発展形ではありますが、動力源やバッテリーを含む装置が非常に小型化、軽量化されたことで、実用に近づきつつあります。このような治療方法の効果が本当にあるどうか検証するために、現在、順天堂大学では特定臨床研究を行っています。
大きく2つあると思います。ひとつは、筋肉全体の活動パターンの測定とAIと組み合わせることで、患者さんが指を伸ばそうとしているのか、それとも指を曲げようとしているかを判別できる点。患者さんの意図と関係なく手や足を動かすだけの装置でも、関節を柔らかくするなどの効果は期待できますが、意図と動きを一致させることでより高い効果が見込めます。
もうひとつ、電極を貼る位置の自由度が高いのも特長で、これによってセラピストも扱いやすいものになっています。扱いやすいということは、病院以外などさまざまな場所で使えるということ。将来的には、こうした装置のアシストによって、さまざまなシーンで、セラピストがマンツーマンで対応しなくても運動療法を提供できるようになるかもしれません。
MELTINの装置はものをつまむなど、日常生活に必要な動作をシミュレートしてあり、ロボットがアシストしてくれる。こうした新しい装置の登場など、治療の選択肢が増えることが、よくなる患者さんの増加につながると思います。
すべての治療には適応と限界があります。まず、それを知ることが重要です。技術の発展や新たな装置の開発により、治療の選択肢が増えることにつながるとは思います。だからといって、こうした装置がすべての患者に効果があるわけではなく、すぐにセラピストに置き換わるわけではありません。患者さんごとに異なる状況に合わせて、トレーニングする必要があるからです。
ロボットは、決まった動作を正確に繰り返せることが得意なのであって、さまざまなことをできるわけではありません。我々、リハビリテーション科専門医は、患者さんの予後と状態に合わせた最適な治療を選択して行います。常に、患者さん一人ひとりの限界と適応を知ることを心がけています。
MELTINの装置についても、効果的に使える患者さんとそうではない患者さんが存在するはずですので、そのあたりの見極めも重要になると思います。
ふじわらとしゆき/順天堂大学大学院リハビリテーション医学教授。すべての障害に対応できる「Physiatrists(リハビリテーション科専門医)」として活動を続ける。